大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成3年(ワ)2611号 命令

原告 相原久仁子

〈ほか五七〇名〉

被告 国

右当事者間の頭書事件について、原告らに対し、この命令送達の日から一四日以内に訴え提起の手数料として二六七万九〇〇〇円を納付することを命ずる。

理由

一  本件訴えは、被告国が湾岸協力会議に設けられた湾岸平和基金へ九〇億ドルの支出をすること及び湾岸危機に伴う避難民の輸送に関する暫定措置に関する政令(平成三年政令第八号)に基づいて自衛隊機及び自衛隊員を派遣することが、いずれも憲法によって保障されている原告らの平和のうちに生存する権利を侵害するものである等と主張して、右九〇億ドルの支出及び自衛隊機等の派遣の差止めを求めるとともに(本件請求の趣旨一項及び二項)、右の支出等が閣議決定されたこと等によって精神的苦痛を被ったとして、各金一万円ずつの損害賠償の支払を求める(本件請求の趣旨三項)ものである。

二  右の差止めの請求には、原告らの平和のうちに生存する権利に対する侵害を事前に予防するための請求が含まれているものと解されるが、その請求の根拠として個々の原告らに固有の右のような人格権又はこれに類する権利が主張されていることは明らかである。そうすると、原告らの差止めを求める行為自体は被告国の行う右九〇億ドルの支出等という同一の行為ではあっても、その差止めによって原告らの得ることとなる利益は、個々の原告ごとに別個独立に存在するものというべきことになる。

三  ところで、右の被告国に対する差止請求について、それが財産権上の請求には該当するが、その訴訟の目的の価額を民事訴訟費用等に関する法律四条二項の規定に準じて九五万円とすべきものとし、あるいは、これを非財産権上の請求に該当するものとして右の規定により九五万円とした場合においても、右二のとおり右の請求によって原告らの得ることとなる利益が各原告ごとに別個独立に存在するものと考えられ、各原告らの本件訴えがいわゆる必要的共同訴訟となるものではないことからすれば、本件の訴え提起の手数料の算定に当たっては、右各原告ごとの訴訟の目的の価額を合算すべきこととなる。

四  そうすると、本訴における各原告の訴訟の目的の価額は、右差止請求に係る訴訟の目的の価額九五万円(右損害賠償に係る訴訟の目的の価額一万円との関係では、民事訴訟費用等に関する法律四条三項の規定の適用があるものとして処理することとする。)となるところ、本訴においては、原告ら五七一名が一個の訴えをもって右の各請求をしているから、その訴訟の目的の価額は合計五億四二四五万円となり、右の価額に応じた訴え提起の手数料の額は二七二万〇六〇〇円となる。

五  よって、原告らに対し、既に納付済みの四万一六〇〇円を除いた二六七万九〇〇〇円の納付を命ずることとする。

(裁判長裁判官 涌井紀夫 裁判官 市村陽典 近田正晴)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例